マルコフ連鎖を一言でいうと、「未来の出来事は、現在の状態だけで決まり、過去の経緯は関係ない」という考え方に基づいた、未来を予測するための数学的なモデルです。なんだか難しそうに聞こえるかもしれませんが、実はとてもシンプルで、私たちの身の回りでも応用されている考え方です。
例えば、「今日の天気が分かっていれば、明日の天気はある程度の確率で予測できるけれど、昨日や一昨日の天気がどうだったかは、明日の天気にあまり関係ない」と考えるのがマルコフ連鎖のイメージです。
具体例で見てみよう!「お天気の予測」
マルコフ連鎖を理解するのに、一番わかりやすいのが「お天気」の例です。
ここに、とても単純な天気のルールがあるとします。
- 今日が「晴れ」の場合
- 明日も「晴れ」になる確率は80%
- 明日は「雨」になる確率は20%
- 今日が「雨」の場合
- 明日は「晴れ」になる確率は40%
- 明日も「雨」になる確率は60%
このルールでは、明日の天気を予測するのに今日の天気だけを見ています。昨日の天気が晴れだったか雨だったかは、まったく考えていません。これが「マルコフ性」と呼ばれる、マルコフ連鎖の最も大事な特徴です。
もし今日が「晴れ」だったら…
- 明日の天気は、80%の確率で「晴れ」です。
- では、明後日の天気はどうなるでしょうか?これは少し計算が必要ですが、マルコフ連鎖の考え方を使えば予測できます。
- 「今日:晴れ → 明日:晴れ → 明後日:晴れ」となる確率
- 「今日:晴れ → 明日:雨 → 明後日:晴れ」となる確率
- この2つのパターンを足し合わせることで、今日が晴れだった場合に明後日が晴れになる確率を計算できるのです。
このように、現在の状態と、それぞれの状態が次にどの状態へ変化するかの確率(これを推移確率といいます)が分かっていれば、未来の状態を予測できるのがマルコフ連鎖の仕組みです。
マルコフ連鎖は、どんなところで使われているの?
この「未来は現在だけで決まる」というシンプルなモデルは、実は様々な最先端の技術に応用されています。
- スマートフォンの日本語入力予測
「わたしは」と入力した次に「がっこう」や「ほん」といった単語が候補として出てきますよね。これは、「わたしは」という現在の単語の次に、どの単語が来る確率が高いかをマルコフ連鎖の考え方を使って計算しているのです。 - 文章の自動生成
単語から次の単語へのつながりの確率を使って、コンピュータが自動的に文章を作り出す技術にも応用されています。小説やメールの文章、さらにはソースコードの生成などにも利用されています。 - 感染症の予測
ある人が「感染していない状態」から「感染した状態」へ、そして「回復した状態」へどう移っていくかをモデル化し、感染拡大を予測するためにも使われています。 - Web広告の効果測定
ユーザーが広告を見てから商品を購入するまでの行動パターンを分析し、どの広告が購入に繋がりやすいかを評価するためにも活用されています。
このように、マルコフ連鎖は一見複雑そうな現象でも、その裏にあるシンプルなルールを見つけ出し、未来を予測するための強力なツールとして、科学やテクノロジーの様々な分野で活躍しています。