Webアプリケーションやモバイルアプリケーション開発において、バックエンドとフロントエンドをつなぐAPIは非常に重要な役割を担います。そのAPIの設計手法として、長くREST APIが主流でしたが、近年、GraphQLという新しい技術が注目を集めています。
この記事では、GraphQLとは何か、そしてREST APIをはじめとする他の技術と何が違うのかを、分かりやすく解説します。
1. APIの進化とGraphQLの登場
インターネットの黎明期から現在に至るまで、アプリケーションはますますリッチになり、扱うデータも複雑化しています。これに伴い、バックエンドから必要なデータを取得するためのAPIも進化が求められてきました。
REST APIは、そのシンプルさと柔軟性から広く普及し、Webサービスの開発に欠かせないものとなりました。しかし、特にモバイルアプリケーションの普及により、REST APIにはいくつかの課題が見えてきました。
- Over-fetching(取りすぎ): 1つのエンドポイントから必要以上のデータが返されること。
- Under-fetching(不足): 必要なデータを取得するために複数のエンドポイントを呼び出す必要があること。
これらの課題を解決するためにFacebook(現Meta)が開発し、2015年にオープンソースとして公開されたのがGraphQLです。
2. GraphQLとは?
GraphQLは、APIのための「クエリ言語」であり、そのクエリを実行するための「ランタイム」です。クライアントが必要なデータの構造をリクエストとして送り、サーバーはそれに正確に一致するデータを返します。
REST APIが「リソース」指向であるのに対し、GraphQLは「データ」指向と言えます。
GraphQLの核となる概念は以下の通りです。
- スキーマ (Schema): APIが公開するデータの型とその関連性を定義する設計図です。サーバー側で定義され、クライアントはスキーマを見ることで利用可能なデータを把握できます。
- 型 (Type): スキーマ内でデータの構造を定義します。例えば、「User」型には「id」「name」「email」といったフィールドを持つ、といった具合です。
- クエリ (Query): データを「取得」するための操作です。クライアントは必要なフィールドを指定してサーバーにリクエストを送ります。
- ミューテーション (Mutation): データを「作成」「更新」「削除」するための操作です。データの書き込みを行います。
- サブスクリプション (Subscription): データの「変更を購読」するための操作です。サーバー側でのデータの変更をリアルタイムでクライアントに通知します。
3. GraphQLのメリット
GraphQLを導入することで得られる主なメリットは以下の通りです。
- 効率的なデータ取得: クライアントが必要なフィールドだけを指定して取得できるため、無駄なデータ転送がなくなり、特にモバイル環境でのパフォーマンス向上に貢献します(Over-fetchingの解消)。
- フロントエンド開発の効率化: 必要なデータを一度のAPIコールで取得できることが多くなり、複数のエンドポイントを呼び出す手間が省けます(Under-fetchingの解消)。これにより、フロントエンドの開発速度が向上します。
- スキーマによる明確な仕様: スキーマによってAPIが提供するデータ構造が厳密に定義されるため、クライアントとサーバー間のコミュニケーションが円滑になります。ツールによる自動補完やバリデーションも容易になります。
- 進化するAPIへの対応: 新しいフィールドを追加しても、既存のクエリに影響を与えにくいため、APIの進化に合わせてクライアント側も柔軟に対応できます。
4. GraphQLのデメリット
一方で、GraphQLにもいくつかのデメリットが存在します。
- 学習コスト: REST APIに慣れている開発者にとっては、GraphQLの考え方やクエリ言語を学ぶ必要があります。
- 複雑な処理: ファイルアップロードのようなバイナリデータの扱いや、複雑な認証・認可の設計は、REST APIの方がシンプルな場合があります。
- キャッシュ戦略: REST APIはHTTPの標準キャッシュ機能を活用しやすいですが、GraphQLではエンドポイントが一つになるため、クライアント側でのキャッシュ戦略を独自に検討する必要があります。
- N+1問題: クエリの設計によっては、関連データを取得する際にデータベースへのアクセスが多発するN+1問題を引き起こす可能性があります。サーバー側での効率的な解決策が必要です。
5. REST APIとの比較
GraphQLとREST APIは、どちらもAPIを構築するためのアーキテクチャスタイルですが、その思想とアプローチには違いがあります。以下に主な違いをまとめます。
項目 | GraphQL | REST API |
---|---|---|
思想 | データ指向 (必要なデータを取得する) | リソース指向 (特定のリソースにアクセスする) |
エンドポイント | 基本的に単一 (すべてのリクエストを処理) | 複数 (リソースごとに異なるエンドポイント) |
データ取得 | クライアントが必要なフィールドを指定して取得 | 固定されたデータ構造をエンドポイントごとに取得 |
Over-fetching | 発生しにくい | 発生しやすい |
Under-fetching | 発生しにくい (一度のリクエストで取得可能) | 発生しやすい (複数リクエストが必要な場合がある) |
バージョン管理 | スキーマの進化で対応しやすい | エンドポイントのURLにバージョンを含めるなど必要 |
キャッシュ | クライアント側での独自の考慮が必要 | HTTPの標準キャッシュ機能が活用しやすい |
ステートレス性 | 基本的にステートレス | ステートレス |
学習コスト | RESTと比較すると高い場合がある | 比較的低い (Webの標準技術に基づいている) |
6. GraphQLが向いているケース、向いていないケース
これらの特徴を踏まえると、GraphQLは以下のようなケースで特に力を発揮します。
- モバイルアプリケーション: 通信量を抑えたいモバイル環境で、必要なデータだけを効率的に取得したい場合。
- 複数のクライアントを持つAPI: Web、iOS、Androidなど、異なるクライアントがそれぞれ必要なデータの形が違う場合。
- マイクロサービス間の通信: 細分化されたサービス間で効率的にデータを連携させたい場合。
- 頻繁にデータ構造が変わる可能性のあるアプリケーション: スキーマの進化に柔軟に対応したい場合。
一方、以下のようなケースでは、REST APIの方が適している場合もあります。
- 静的なデータを提供するAPI: データ構造が固定されており、変更が少ない場合。
- 単純なCRUD操作が中心のAPI: 複雑なデータの組み合わせが必要ない場合。
- ブラウザの標準キャッシュを積極的に利用したい場合: Webブラウザからの利用が中心で、キャッシュによる高速化を重視する場合。
7. まとめ
GraphQLは、API開発における強力な選択肢の一つであり、特にデータ取得の効率性やフロントエンド開発の柔軟性においてREST APIに対する優位性を持っています。
しかし、GraphQLは「銀の弾丸」ではありません。プロジェクトの要件、開発チームのスキル、アプリケーションの特性などを総合的に考慮し、REST APIを含めた他の技術と比較検討した上で、最も適したAPIアーキテクチャを選択することが重要です。
この記事が、GraphQLについて理解を深め、ご自身のプロジェクトでAPIを設計する上での一助となれば幸いです。